災害研究の動向(概説)
過去の主な災害
阪神・淡路大震災
阪神大震災の時系列での社会的問題の展開


応急復旧・復興期

 「応急復旧・復興期」は仮設住宅が建設され、住民が入居し、とりあえずの生活の場が確保され、そこから生活再建を始める時期である。応急復旧期に入り、家族単位でのプライバシーが辛うじて保たれる空間の確保がようやく実現する。被災住民は徐々に生活再建を考えるための意欲と余裕を取り戻していき、さらに一歩踏み込んで生活の個別領域での再建を設計していく段階に入っていく。この時期は、同時に個別領域での生活再建を支援する行政施策メニューが各種住民団体による要望を受けながら徐々に検討され整備されていく過程でもある。

 この時期においては、次にあげる三つのラインに沿う社会的問題群の波及・連鎖が特徴的である。
 第一は、主として仮設住宅等のテンポラリィ・ハウジングに伴うものであり、@仮設住宅への入居とその過程で生じる社会関係の断絶、A災害弱者優先配分の結果としての高齢者が集中する仮設住宅の運営と心身両面でのサポートの難しさ、B土地不足による遠隔地仮設住宅出現による弊害等に関連する社会的問題群が含まれる。
 第二は、被災者に対する行政サービスの縮小とボランティア引き上げに伴う人的資源の不足に関連する社会的問題群であり、これは同時に疎開生活を含めた被災時の緊急サポート・システムから切り離されて自立的な生活再建をめざす(余儀なくされる)過程で生じるさまざまな社会的問題群の一つとして位置づけることができよう。
 避難生活が長期化し、外部からのボランティア支援が撤退しはじめると、ボランティア支援により維持されてきた震災下の高齢者の福祉サービス水準が見直されるため、とくに地域や家族・親族のネットワークから切り離された高齢者にとっては厳しい現実に直面することも少なくない。ボランティアたちとの悲しい別れは、同時に客観的な条件が整わぬ不安のなかで、被災住民への諸サービスの後退による相対的剥奪感を感じながらの、無理矢理の自立へのはじまりでもある。また、この避難救援期から応急復旧期への移行期には避難所での集団生活から、プライバシーが一応保たれるが同時に孤立もしがちな仮設等の応急住宅での個々の生活へと変化し、生活を送る場所も移動することが多いため、人間関係をはじめとした生活を支える諸ネットワークの再構築が必要とされる。
 第三は、経済生活や住生活、日常的な社会関係の再構築といった社会経済的な意味での生活再建の実現に関わる社会的問題群である。
 高齢者の場合、被災前にある程度生涯にわたる「生活設計」を行い、それに従って生活形態を確立していることが多い。生涯に必要と見込まれる資金、住宅等居住場所の確保、余暇や趣味を含めた生きがいの選択、そうした生活に必要な諸ネットワークの創造と維持・・・・こうした努力や選択の結果として、被災前の生活が成り立っているのである。単身で生活するお年寄りも、それまでに置かれた社会状況を前提とする選択の積み重ねで、単身で生きるためのさまざまな仕組みやネットワークを創り上げながら、そうした生活を送っているのである。巨大災害の直接の結果である住宅被害と人的被害、被災後の混乱による近隣や友人・知人との消息の途絶は、こうした高齢者を取りまく生活の仕組み自体を揺るがせ(破壊し)、生活形態を強制的に改変させた。また、その後の復旧・復興に向けての行政や人々の社会的対応も、大きな影響を及ぼし、時にはマイナスに働いたのである。災害後に避難所生活等で築かれた人間関係は、確かに緊急生活をしのぐためには大きな力を与えてくれるが、生活再建に向けての力になるには、さらに関係が成熟していくための条件が必要である。

 こうした中での高齢者の生活再建を考えると、高齢者自身が受けたダメージの大きさや心身の条件、社会経済的条件にもよるが、自力で生活展望を考える難しさが指摘されよう。高齢者が張り巡らすネットワークは、家族関係に典型的にみられるように、支援を受けるだけの一方的なものではなく、長いタイム・スパンの中では相互依存的な性格をもっていたものであるが、それから切断されると、自力での生活力の衰え、新規の環境への適応力の衰え、収入源の限定等の経済的なハンディ等と過去への追憶が相乗化するため、生活展望を切り拓く自己決定力は弱まり、置かれた周囲の状況への依存度を増すことになる。

 高齢者の場合、一般的には、身体機能の衰えや健康状態の悪化などの肉体的な制約、周囲の環境への適応の柔軟度が衰えるなど心理・精神面での制約、生活諸資源の調達や利用のしかた等の経済的社会的諸側面における制約が強いため、災害過程における適応という点では問題を生じさせやすいのである。しかし、高齢者におこる生活問題は、高齢者だけが受けるストレスに常に起因するわけではなく、むしろその大半は災害過程のなかに巻き込まれたすべての社会成員が多かれ少なかれ体験するものでもある。こうした点では、高齢者の生活問題は、社会成員全体に共通する側面を強くもっており、その高齢者への典型的なあらわれとして捉えることができる。




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