四国八十八ヶ所霊場案内及名勝史蹟交通鳥瞰図
 この鳥瞰図は、日本画家の吉田初三郎が昭和8年に描き、昭和9年に由良要塞司令部の検閲を受けて香川県第68・69番札所観音寺が発行したものである。
 なによりも珍しいのは、立体的な四国遍路鳥瞰図であることである。太平洋側からの空中視点から描かれている四国は、かなりデフォルメされているが、遍路道や札所の相対的なおよその高低差が一目でわかる。四国遍路の立体的なパースペクティブによる画期的な地図といえよう。全体の色調が青・緑色系で統一されて美しく、さすが日本画家の手による芸術的にも質の高い遍路地図の秀作である。
 そしてなんといっても、特筆すべきは、遍路道のそこかしこに点在するように描かれている青色の車である。裏面の「絵に添へて一筆」で、吉田は驚くべきことに昭和初期にもかかわらず「車遍路」を推奨しているのである。歩けば45日もかかる長日時辟易する人々に向けて次のように言っている。「そこで、そうした人のために、少し贅沢ではあるが、筆者はせつに自動車をお奨めしたい。さすれば日数凡そ十日を以って・・・心身ともに極楽を行く大ドライブ。・・いま試みに、筆者の経験を基礎としてその費用概算を示すならば、自動車・・代金・・・計金百五十円也。・・宿泊料金・・玄米三升代だけではおさまらない。すくなくとも一日三円や五円・・・・」
 くわえて吉田は、巡拝札打始めを一番札所にとらわれず、打ちやすい札所からの遍路を勧めている。車遍路といい、一番からの「順拝」にこだわらぬ「巡拝」といい、現代遍路の先駆者のような人が昭和初期の遍路史に登場している点が興味をそそる。